鳥啼き魚の目は泪
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2.0 • 1件の評価
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- ¥1,800
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発行者による作品情報
その美しい庭は、人の心を曝け出す。
駆け出しの造園設計士・高桑は大学の卒論で作庭師・溝延兵衛と、彼の代表作となったある庭を取り上げて以来、長年にわたり取り憑かれ続けていた。
武家候爵・吉田房興が兵衛に依頼したもので、定石を覆す枯山水を作るために、大きな池が埋められていた。その池からは、白骨死体が見つかっていた――。
昭和初期。限られた時代を生きたある華族の哀しみと、異能の作庭師の熱情が静かに呼応する「美しい庭」の誰も知らない物語。
APPLE BOOKSのレビュー
はかなく消えていくものと、永く残るもの。昭和初期の東京を舞台に、失われゆく落日の華族と美しい枯山水の庭の知られざる秘密を重厚に描いた傑作時代小説。昭和8年、武家侯爵・吉田房興の日本庭園で改修中の池の底から身元不明の白骨死体が発見された。この出来事に端を発し、広大な池を埋め立てて斬新な枯山水の庭を造ることを決心した房興は、新進気鋭の作庭師・溝延兵衛を雇い入れる。華族という特権階級に生きるが故に家に縛られ、己を捨てて暮らす吉田家当主夫妻。夫の房興は、溝延が造る庭の不思議な魅力に引かれ、妻の韶子は、才能にあふれながら虚飾も欲もない溝延その人に引かれていくが、やがて不穏な時代に翻弄(ほんろう)された吉田家に悲劇が訪れる…。波瀾(はらん)万丈の物語だが、あえて渦中の人ではなく、傍観者を語り部にした構成がうまい。韶子に仕える女中トミの視線で語られる華族の世界の描写は、洋の違いはあれど『ダウントン・アビー』を思わせるし、真相を知らない造園設計士である高桑に、溝延が渾身(こんしん)の力を込めた枯山水を見つめさせ、過去と現代をつなぐ趣向も見事。過ぎ去る春を惜しむ芭蕉の俳句から取ったタイトルも秀逸で、滅びゆく運命の中で生きた人々の惜別の思いが伝わる。