黒パン俘虜記
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発行者による作品情報
「軍隊は運隊だ」という言葉どおり、運悪く、敗戦と同時に送りこまれたモンゴルの収容所は、まさにこの世の地獄だった。軍律の崩壊した集団に君臨するやくざあがりの大ボス・小ボス。食糧といえば、黒パンとわずかなスープ、それも搾取され、強制労働にかり出される毎日。栄養失調、疾病、私刑で、つぎつぎと失われる生命。襲いくる不条理に耐えながら、帰国を待ち侘びる日々を支えてくれたのは、小説と映画と流行歌への熱い思いだった。死んでいった戦友たちへの祈りをこめた第89回直木賞受賞作。
APPLE BOOKSのレビュー
第89回(1983年上半期)直木賞受賞作。第二次世界大戦後、2年余りにおよぶモンゴル抑留を経験した胡桃沢耕史が、自身の体験を基につづった長編小説。戦場で20歳の誕生日を迎えた青年が、モンゴルで俘虜(捕虜)となり、死と隣り合わせの収容所生活を生き抜く姿を描く。敗戦後、中国で俘虜となった「ぼく」はウランバートルの収容所に送られた。そこは、元極道の荒くれ者たちに牛耳られ、理不尽な制裁におびえながら過酷な労働を強いられる“地獄の一丁目”だ。わずかな黒パンと水だけで食いつなぐが、栄養失調や私刑で命を落とす者が後を絶たない。モンゴル語の通訳や映画講談などをして必死に生き残ってきた「ぼく」は、3度目の冬が近づいたある日、体力の限界を自覚。どうせ殺されるならと脱走を企てる…。極限状態での人間の愚かさや醜さを克明につづり、その描写には凄惨で残酷なものも多い。しかしその一方、どこか淡々としたユーモアさえ感じられる。数多くの大衆小説で読者を楽しませてきた著者ならではの戦争文学といえるだろう。悲惨な体験を題材にとりながらも、痛快な冒険活劇として読むことができる。