1R1分34秒(新潮文庫)
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2.8 • 6件の評価
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発行者による作品情報
デビュー戦を初回KOで華々しく飾ってから、3敗1分けと敗けが込むプロボクサーのぼく。そもそも才能もないのになぜボクシングをやっているのかわからない。ついに長年のトレーナーに見捨てられるも、変わり者の新トレーナー、ウメキチとの練習の日々がぼくを変えていく。これ以上自分を見失いたくないから、3日後の試合、1R1分34秒で。青春小説の雄が放つ会心の一撃。芥川賞受賞作。(解説・町田康)
APPLE BOOKSのレビュー
第160回(2018年下半期)芥川賞受賞作。考えすぎてばかりいる21歳プロボクサーの「ぼく」は自分の弱さに、その人生に飽きていた。だが、変わり者のトレーナー、ウメキチとの練習の日々が、「ぼく」を、その心身を、世界を変えていく…。純文学とエンターテインメントをはっきり区別しがちな人にとっては、その思い込みを打破する格好の良書となるだろう。壁に突き当たったプロボクサーが、駆け出しトレーナーの下で新たな可能性を切り開く物語は、スポーツ小説としては正統的な展開だ。リアルなボクシング描写や、心地よくそれでいて妙に心に引っかかるワードセンス、そして「ぼく」の抱える葛藤が真に迫る。ボクシングを通じて自己を見つめ、他者を見つめ、未来と過去を見つめ、“ありえたかもしれない”並行世界をも見つめる「ぼく」の心に触れるたび、読み手も身につまされるのは、そこに共感しうる自問自答があるからだ。人は勝つことを余儀なくされる瞬間が間違いなくあり、その勝ちを放棄したところには何もなく、だからこそ勝つぞという動機を失うわけにはいかない。何かと向き合っていながら目的を見失っている読者は天啓に打たれることだろう。