



Iの悲劇
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3.8 • 5件の評価
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- ¥800
発行者による作品情報
Iターンプロジェクト担当公務員が直面するのは、
過疎地のリアルと、風変わりな「謎」――。
無人になって6年が過ぎた山間の集落・簑石を
再生させるプロジェクトが、市長の肝いりで始動した。
市役所の「甦り課」で移住者たちの支援を担当することになった万願寺だが、
課長の西野も新人の観山もやる気なし。
しかも、公募で集まってきた定住希望者たちは、
次々とトラブルに見舞われ、
一人また一人と簑石を去って行き……。
直木賞作家・米澤穂信がおくる極上のミステリ悲喜劇。
解説・篠田節子
※この電子書籍は2019年9月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
APPLE BOOKSのレビュー
直木賞作家、米澤穂信が限界集落を舞台にIターンの悲喜劇を描く連作ミステリー。6年前に無人となった山あいの集落、簑石。この土地に市外から新規転入者を呼び、再生させるIターンプロジェクトが、新市長の肝いりで始まった。市役所の“甦り課”に異動させられた万願寺邦和は、移住者たちの支援に奔走するが、去年採用されたばかりで学生気分の抜けない同僚の観山遊香も、万年定時退社でやる気ゼロの西野秀嗣課長も全く頼りにならない。その上、移住者たちに次々とトラブルが発生し…。隣人同士の騒音問題と失火、養殖したコイの盗難、子どもの失踪、毒キノコによる食中毒、由緒ある仏像のすり替えなど、当事者にとっては悲劇に思える事件が頻発するが、万願寺と観山のやりとりはユーモラス。それぞれの事件の真相も、人間の浅はかさはあらわになるものの、それほど深刻ではなく喜劇的。だがこれは、いわゆる“日常の謎”を扱った軽いミステリー集ではない。それまでの解決を覆す終章は、例えば作者も敬愛する山田風太郎の『太陽黒点』に比肩する衝撃。過疎化した地方の現実を描く社会派小説の側面と、巧緻な仕掛けを施したミステリーの技法が矛盾しない、作者ならではの快作。