静寂 ある殺人者の記録
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- ¥2,400
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発行者による作品情報
蝶の羽ばたき、彼方の梢のそよぎ、草むらを這うトカゲの気配。カールは、そのすべてが聞こえるほど鋭敏な聴覚を持って生まれた。あらゆる音は耳に突き刺さる騒音になり、赤ん坊のカールを苦しめる。息子の特異さに気づいた両親は、彼を地下室で育てることにした。やがて9歳になった彼に、決定的な変化が訪れる。母親の入水をきっかけに、彼は死という「静寂」こそが安らぎであると確信する。そして、自分の手で、誰かに死を贈ることもできるのだと。――この世界にとってあまりにも異質な存在になってしまった、純粋で奇妙な殺人者の生涯を描く研ぎ澄まされた傑作!
APPLE BOOKSのレビュー
過敏な聴覚を持った男の数奇な生涯を綴る物語、「静寂 ある殺人者の記録」。ヨーロッパの小さな村落で生を受けた主人公、カール・ハイデマンは、人々を苦しみから救済しようと連続殺人に手を染め、やがて過酷な放浪の旅へと出る。物語は常にカールの視点に立ち、不遇な境遇の中で懸命に生き抜きながら、凶行に至るまでの心理的過程が丁寧に描かれる。命を奪うという行為でしか人を救うことができない主人公の苦悩や、単純な善悪では捉えられない彼の複雑な動機にもリアリティがあるのは、心の機微を浮き彫りにする真に迫った人間描写の賜物。運命に導かれるように彼の足取りを追う刑事、ホルスト・シューベルトとの緊迫感のある逃亡劇も、ストーリーをより盛り上げる。純粋すぎるカールから見た世界は不条理に満ちているが、一人の人間との出会いによって、救いの道を見出していく姿には、微かな希望を見出すことができ、読後にはさわやかな感動が広がる。