ぬばたまおろち、しらたまおろち
-
- ¥1,000
発行者による作品情報
両親を失い、田舎にある伯父の家に引き取られた綾乃には秘密の親友がいた。幼いころ洞穴で見つけた小さな白蛇アロウ。アロウはみるみる成長し、今では立派な大蛇だ。十四の夏、綾乃は村祭の舞い手に選ばれた。だが、祭の当日、サーカスから逃げ出したアナコンダが現れ村は大混乱に。そんななか、綾乃は謎の男に襲われるが、そこに疾風のように箒で現れ、間一髪彼女を救ったのは、村に滞在していた民俗学者の大原先生だった。綾乃はそのまま先生の母校ディアーヌ学院に連れていかれ、そこで学ぶことになるが、そこはとても変わった学校で……。第2回創元ファンタジイ新人賞優秀賞受賞作。/第2回創元ファンタジイ新人賞選評=井辻朱美、乾石智子、三村美衣
APPLE BOOKSのレビュー
気鋭の作家、白鷺あおいのデビュー作「ぬばたまおろち、しらたまおろち」。主人公の深瀬綾乃は、中学2年生の村祭りの夜に大蛇に襲われる。間一髪のところで竹箒で飛んできた魔女に助けられるという、躍動感のある展開でファンタジーの世界に一気に引き寄せる筆力に注目。導かれるままに落ち着いた先は、妖怪と人間が共に学ぶ中高一貫校。ここから綾乃の不思議な冒険譚が幕を開ける。妖怪の存在が身近な村を舞台に地域の伝承など民俗学的な要素を盛り込み、物語の始まりを丁寧に描くことで、読者に妖怪と人間が共存する現代という世界観に違和感を覚えさせることなく最後まで読みやすい仕上がりになっている。綾乃の全寮制の学園生活を描く場面ではにぎやかな青春小説的な記述となり、さらに大掛かりなタイムスリップを経て、大蛇に襲われた謎を鮮やかに解決してみせる納得の大団円へと大きく展開していく。雪女、人狼、白虎など古今東西の妖かしたちが入り乱れて登場するのが愉快。軽快で明るい筆致により、数々の妖怪が登場し不思議なことが巻き起こる世界を楽しく書ききった秀作。