うるさいこの音の全部
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発行者による作品情報
小説と現実の境目が溶けはじめる、サスペンスフルな傑作
嘘だけど嘘じゃない、作家デビューの舞台裏!
「おいしいごはんが食べられますように」で芥川賞を受賞した高瀬隼子さんが挑む新たなテーマはなんと「作家デビュー」。
ゲームセンターで働く長井朝陽の日常は、「早見有日」のペンネームで書いた小説が文学賞を受賞し出版されてから軋みはじめる。兼業作家であることが職場にバレて周囲の朝陽への接し方が微妙に変化し、それとともに執筆中の小説と現実の境界があいまいになっていき……職場や友人関係における繊細な心の動きを描く筆致がさえわたるサスペンスフルな表題作に、早見有日が芥川賞を受賞してからの顛末を描く「明日、ここは静か」を併録。
APPLE BOOKSのレビュー
『おいしいごはんが食べられますように』で人が分かり合うことの難しさを描いた高瀬隼子が、作家デビューの舞台裏を描く作品。ゲームセンターに勤務しながら小説を書いている長井朝陽は、「早見有日」名義で書いた小説が文学賞を受賞し、それが一冊の本となったことで変わっていく周囲の人々の視線に戸惑いを隠せない。作家であるとばれたことで「へー、ナガイさんっていい人だけど、小説なんか書いてたんだ」とサインを求めてくる同僚たち。メールやSNSなどで突然“お祝い”をしてくる、今はもう誰かもよく思い出せない人たち。今の“わたし”は果たして小説家の「早見有日」なのか、それともゲームセンターで働いている「長井朝陽」なのか。実際に芥川賞受賞者でもある高瀬本人の経歴とも相まって、現実と架空の世界が入り混じり、息苦しいような緊張感がみなぎっている。これは言うなれば、作家としての思春期を描いた物語なのかもしれない。他人に分かってもらいたいと渇望しながらも、分かられてたまるかとばかりに虚勢を張り、なおも気持ちは揺れ動く。それは本人にとって至って切実で深刻で繊細な問題であるが、周囲からすればなんとももどかしく、滑稽にも見える。