今川の桜 第一巻
外される袖
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発行者による作品情報
文明八年、父・今川義忠が討死した夜、七つの少女・桜は母に問うた。母上は、私をいらないのですね。母は答えなかった。ただ、行きなさい、とだけ言った。
弟・龍王丸の指を握りしめた袖を、母の白い指が一本ずつ外していく。桜は輿に乗せられ、叔父・伊勢新九郎の手配により、見知らぬ屋敷へと送られた。
泣いても、母は来なかった。帰りたいと叫んでも、道は戻らなかった。伊勢の屋敷で桜を待っていたのは、藤乃という女房だった。慰めるでもなく、叱るでもなく、ただ桜を折らぬためにそばにいる人。
文を整えること。泣く場所を選ぶこと。言葉の道を誤れば、愛する者を傷つけること。桜は怒りながら、恨みながら、少しずつそれを覚えていった。
そして駿府から報せが届く。龍王丸が家督を取り戻し、今川氏親となった。
外された袖。変わっていく名。戻れない夜。それでも桜は、駿府へ戻る輿に乗る。
今川氏親の姉として。伊勢で育った姫として。もう七つではない桜として。
今川クロニクルは、戦国大名・今川家を、合戦の勝敗だけではなく、家をつなぐ人々の視点から描く歴史物語シリーズです。