武田義信転記 第二巻
武田は押し、今川は流れる
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発行者による作品情報
三国同盟が結ばれ、東南は静まった。だが、武田の国は軽くならない。
川中島は終わらない。勝っても次がある。押しても押し返される。北の前線は兵と物と人足を食い続け、甲斐の細い流れをじわじわと削っていく。父・信玄の一手は正しい。軍として、戦国大名として、これ以上なく正しい。だからこそ、義信には恐ろしかった。
婚姻で結ばれた今川の娘・嶺松院が甲府へ来た。そして義信は知る。あの国に流れていたのは、先代・今川氏親が置いた骨だったのだと。道、伝馬、法、寺社、都とのつながり、海への口。武田に足りないものが、駿府という心臓に集まっていた。
勝つための国と、食えるための国は、同じではない。
そして桶狭間で、今川義元が討死した。
義信の胸に走ったのは悲報ではなかった。崩れの気配だった。今川が揺れれば、武田の底も揺れる。流れが止まれば、北の前線はさらに重くなる。しかもその先に、別の死の気配が見えた。
待っていては間に合わない。
四次川中島の軍議で、義信は山本勘助の策に正面から異を唱える。別働隊が大きすぎれば、本陣が薄くなる。押し切ったその一点が、翌朝の戦場を変えた。崩れるはずのところを崩れずに済ませた、紙一重の勝ち。叔父・信繁は生きた。
戦に勝つための正しさと、国を残すための正しさ。その二つはまだ、同じ家の中で辛うじて並んでいる。
長編歴史IF小説『武田義信転記』第二巻。