でもほら繁殖するしかないの
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発行者による作品情報
【ホラー中編】
いつの頃からか母たちは壊れていく。壊れた母は、いくら殺しても蘇える。
衝動に突き動かされ、獣性を抑えきれず、襲いかかってくる母。
娘は自分もいずれそうなるのだ、と諦念にからめ取られながらも、
狂った母を返り討ちにするために武器を手にする。
殺さなければ、殺される。
血に塗れたホラー(スプラッターホラー)の重層構造が母と娘のドラマを描きだす。
*****
──殺さないと。
機嫌のよくなった母を、止めなければならない。
前回は父の当番だった。
そのまた前は弟の番だったが、部活の合宿で出ていたため私が代わった。
ちなみに欲しかったCD二枚で、その貸しはチャラになっている。
父も弟も、どこか泊まれる場所を確保できればいいが。
今日はいきなり母の機嫌がよくなっていた。
普段は予兆があるのだ。徐々に機嫌がよくなっていき、家族は気構えと実質的な準備ができる。
今朝家を出たときには、まったく母の感情に起伏はなかったのに。
明日の晩は、父が楽しみにしている大河ドラマの一挙放送がある。
それまでになんとかしておきたい。
母を殺してしまわないと、のんびりテレビを見ている状況ではないのである。
大河ドラマを録画しようにも、デッキには私が録り溜めているドラマがいくつかあって、余裕はない。
母の歌声が止み、けたたましい笑い声に取って代わる。
機嫌のよくなった母の獣性は、これからエスカレートしていくはずだ。それは毎度のことで、わかり切っていることである。
──大丈夫、殺したところで母はすぐよみがえる。