雪〔新訳版〕 上
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発行者による作品情報
十二年ぶりに故郷トルコに戻った詩人Kaは、少女の連続自殺について記事を書くために地方都市カルスへ旅することになる。憧れの美女イペキ、近く実施される市長選挙に立候補しているその元夫、カリスマ的な魅力を持つイスラム主義者〈群青〉、彼を崇拝する若い学生たち……雪降る街で出会うさまざまな人たちは、取材を進めるKaの心に波紋を広げていく。ノーベル文学賞受賞作家が、現代トルコにおける政治と信仰を描く傑作
APPLE BOOKSのレビュー
トルコ人初のノーベル文学賞作家オルハン・パムクの詩情豊かな代表作。政治亡命者としてドイツで暮らす詩人Kaが12年ぶりにトルコに帰国した。国家が掲げる政教分離の世俗主義により、学校での着用を禁じられた“スカーフの少女”の連続自殺事件について記事を書く仕事で、故郷のカルスを訪れたのだ。かつて恋したイペキと再会し、亡命生活で失われた詩想を取り戻したKaは、イペキをドイツに連れ帰ろうとするが、世俗主義とイスラム主義の対立が深まる中、降り続く雪で陸の孤島と化したカルスでは、ついに血が流れてしまう…。カリスマ的なイスラム主義者の“群青”と彼を慕う学生たち、トルコ革命の指導者アタテュルクのイメージを借りて軍と結託する演劇俳優のスナイ・ザイム。そのどちらにもくみせず、どちらの仲介役にもなる“半異邦人”Kaの姿勢は、本書を“政治的メッセージのない政治小説”と位置付けるパムクの姿勢でもある。さらに、Kaが残したメモやノートを基にパムクが小説としてそれを再現したという物語の入れ子構造や、雪のように降る詩想を形にした不可思議な“雪の結晶図”にも目を見張る。降りしきる雪が人間の営為を超越する、現代トルコ文学の到達点。