Publisher Description
「鼻(はな)」
芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ、1892(明治25)年〜1927(昭和2)年)の書いた短編小説です。
今昔物語集や宇治拾遺物語に載る鼻の長い僧侶の話を元に、人の心理に焦点を当てました。
旧字旧仮名で総ルビ、縦書きの電子書籍にしました。
1948(昭和23)年以前の日本語の書き言葉は、漢字の字体、かなづかいが今と違いました。
漢字は今の台湾の漢字に似た画数の多いものだったり、
かなづかいは歴史的仮名遣いと言われる古文のそれでした。
戦前の本は、必ずこの旧字旧仮名です。
とはいえ、漢字は割とそのままも多いですし、かなづかいは中学高校の古文で履修済み。
後は旧字旧仮名で総ルビの本をいくつか読めば、あなたも旧字旧仮名マスター。
国立国会図書館デジタルコレクションの古い本が、インターネットで無料で読み放題。
読書の世界が広がります。
あご下まで垂れ下がる鼻の外見の滑稽さと、それが自分の一部である内面のジレンマ。
今昔物語は巻28第20話「池尾禅珍内供鼻語」にあります。ぜひ読み比べてみてください。
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しかし、その日(ひ)はまだ一日(いちにち)、鼻(はな)が又(また)長(なが)くなりはしないかと云(い)ふ不安(ふあん)があつた。そこで內供(ないぐ)は誦經(ずぎやう)する時(とき)にも、食事(しよくじ)をする時(とき)にも、暇(ひま)さへあれば手(て)を出(だ)して、そつと鼻(はな)の先(さき)にさはつて見(み)た。が、鼻(はな)は行儀(ぎやうぎ)よく唇(くちびる)の上(うへ)に納(をさ)まつてゐるだけで、格別(かくべつ)それより下(した)へぶら下(さが)つて來(く)る氣色(けしき)もない。それから一晚(ひとばん)寢(ね)てあくる日(ひ)早(はや)く眼(め)がさめると內供(ないぐ)は先(まづ)、第一(だいいち)に、自分(じぶん)の鼻(はな)を撫(な)でて見(み)た。鼻(はな)は依然(いぜん)として短(みじか)い。內供(ないぐ)はそこで、幾年(いくねん)にもなく、法華經(ほけきやう)書寫(しよしや)の功(こう)を積(つ)んだ時(とき)のやうな、のびのびした氣分(きぶん)になつた。
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*目次*
├鼻
└底本などに関する情報