吸血鬼
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Publisher Description
この物語の主人公は、彼のバルカン地方の伝説『吸血鬼』にも比すべき、人界の悪魔である。
一度埋葬された死人が鬼と化して、夜な夜な墓場をさまよい出で、人家に忍び入って、睡眠中の人間の生血を吸い取り、不可思議な死後の生活を続ける場合がある。これが伝説の吸血鬼だ。被害者が血を吸われている最中に目覚めた時は、吸血鬼との間に身の毛もよだつ闘争が行われるが、多くは目覚めることなく、夜毎に生血を吸いとられ、痩せ衰えて死んで行く。この妖異を防ぐ為に、人々がそれらしい墓をあばき棺を開いて見ると、吸血鬼と化した死人は、生々と肥え太り、血色がよく、爪や頭髪が埋葬当時よりも長く伸びているので、一見して見分けることが出来る。吸血鬼と分ると、彼等は杭を以て一度死んだその死体をもう一度突き殺すのだが、その時吸血鬼は一種異様の悲痛な叫声を発し、目、口、耳、鼻、皮膚の気孔などから、生けるが如き鮮血を迸らせてついに全く死滅する。というのだ。
私の書こうとする人界の悪魔の生涯は、どことも知れぬ隠秘の隠れ家から、青白き触手をのばして美しい女を襲い、襲われたものは、底知れぬ恐怖のために懊悩、憔悴して行くところ、また、可憐なる被害者を助ける素人探偵と悪魔とのすさまじき闘争、ついに悪魔は正体をあばかれ妖術を失って、身の毛もよだつ最期をとげるまで、即ち『吸血鬼』一代記に相違ないのである。