照顔録〈附坐獄日録〉(2種‪)‬

照顔録〈附坐獄日録〉(2種)
【判型】半紙本1冊。収録順に縦220・230粍。
【作者】吉田松陰(矩方ノリカタ・寅次郎・二十一回猛士)作。
【年代等】安政6年作。明治3年刊カ。[萩]松下村塾蔵板。
【備考】分類「政治」。同板2種を全冊収録した。『照顔録』は、安政6年(1859)江戸の幕獄に赴く3日前の5月22日、長州においての松陰最後の著作。また、「坐獄日録」は安政6年春、野山獄においての著作で、日本の国体や君臣道徳を論じたもの。この「照顔録」と「坐獄日録」が合冊となり、「二十一回猛士説」「三余説」「七生説」「続二十一回猛士説」を付録する。これらの諸説は、門下生が筆写して経典として所持して持ち歩いたものであり、明治維新前に松下村塾で浄書して原版を作成したものでもあった。「照顔録」序文では、「照顔」は、文天祥(1236-83、南宋の政治家で、宋が滅びて元に捕らえられ元に仕えるよう命令されるが、忠節を守り刑死させられた)の正気歌「風簷展書読古道照顔色」から採用したものと述べ、「今吾れ将に去らんとし、平生の萬巻、要するに皆索然、反って一両句の耿耿として顔を離れざるものあり。多事卒卒、細録する能はず。摘録数条、自ら是れ心赤の話頭、観る者幸いに之を存せよ」と記述して、まさに江戸の幕獄に向かわんとする心境を吐露する。平生読んでいる万巻の書は、あとかたもなくても「一両句の耿々として顔を離れざるもの」は、まさにその学問の結晶であったのである。わずか16項目の短文の最後に「文天祥」を配置して、「照顔」を締め括る。そして、本文の16の短文は、現在の心境を古事に託したものである。例えば、初頭の「叩馬而諌」では、「是夷斉初次の狂拳のみ、唯此狂あり、故二能西山の高節をなす」と述べて、伯夷(ハクイ)と叔斉(シュクセイ)が、武王の専横を諌めて聴きいれられず、周の粟を食うのを恥じて、雷首山(首陽山)にのがれて餓死した古事を挙げる。また、大将軍仇鸞(キュウラン)の弱腰を糾弾したために罪を得たり、大学士厳嵩(ゲンスウ)の専権を弾劾したために棄死させられた明の楊継盛(ようけいせい、字は仲芳、号は椒山)については、「古の豪傑、皆真情直に露るるもの也、大事に臨み無情なるが如きは、多情の極と知るべし」と述べる。また、趙家の跡継ぎを守り育てた程嬰(テイエイ)や斉の田横(デンオウ)や趙の宰相貫高(カンコウ)が、それぞれ節に殉じて自決したことを挙げて、「比諸人の死、死友に負かずと謂ふべし、死友に負く者、安ぞ男子と称するに足んや趙肥義日、死者復生、生者不愧、是を謂なり、随園詩話日、莫憑無鬼論、遂負托弧心、此句吾甚感ず、不愧不負、是等の字面、着箇に情あり」と記録した。さらに、楚の国の高潔に生きて自殺した忠義の詩人である屈平(屈原)についても「端午」の詩を記録した。懐王(カイオウ)の信任を受けて左徒の官に就任した屈平の才能を嫉んだ上官太夫が、懐王に「屈平は功を誇り、驕っている」と讒言した。懐王は怒って屈平を遠ざける。そして、懐王に替わり譲王が即位した時も子蘭が屈平を嫉み、譲王に讒言されて、再び江南に流されたのである。また、屈平は「楚辞」の創始者としても有名であり、忠義の人であった等々。これらの故事に共通するのは、品行を重んじる点である。この後、遺書となった「留魂録」を書き上げる安政6年10月26日まで、そして、10月27日の処刑までの約5カ月間は、江戸での囚人生活が続く。その間、松陰が貫き通した信念は「高節・真情・高潔・誠意」の心であり、高潔な忠義の意識を持ち続けた(ウィンベル教育研究所HP)。