随筆 宮本武蔵
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Publisher Description
古人を観みるのは、山を観るようなものである。観る者の心ひとつで、山のありかたは千差万別する。
無用にも有用にも。遠くにも、身近にも。
山に対して、山を観るがごとく、時をへだてて古人を観る。興趣はつきない。
過去の空には、古人の群峰がある。そのたくさんな山影の中で、宮本武蔵は、私のすきな古人のひとりである。剣という秋霜しゅうそうの気が、その人の全部かのように荊々とげとげしく思われて来たが、彼の仮名文字かなもじをようく見つめているとわかる。あんな優雅なにおい、やさしさ、細やかさ、虚淡きょたんな美を、剣を持つ指の先から書きながす人が、過去にも幾人とあったろうか。