アメリカひじき・火垂るの墓
-
-
5.0 • 1件の評価
-
-
- ¥490
-
- ¥490
発行者による作品情報
アメリカ人夫婦が遊びにくる――にわかに甦る敗戦前後の記憶とあやしげな日米親善、そして屈折したアメリカに対する心理をユニークな文体で描く「アメリカひじき」。昭和二十年九月、三宮駅構内で死んだ浮浪児が持っていたドロップ罐のなかに収められた白い骨。それにまつわる兄妹の哀しい記憶を綴った「火垂るの墓」。昭和四十二年下期直木賞受賞作の二作品に加え、「焼土層」「ラ・クンパルシータ」「プアボーイ」など、“焼け跡・闇市派”の異名をとる著者の代表作を収めた。
APPLE BOOKSのレビュー
第58回(1967年下半期)直木賞受賞作。少年時代に空襲で養父を亡くし、疎開先で妹が餓死するという自らの戦争体験から“焼け跡闇市派”を名乗り、正面から戦争と向き合い、反対の立場を貫いた野坂昭如による戦争をテーマにした短編集。妻がアメリカ人夫婦を自宅に招いたことから、浮かんでは消える戦争の記憶に翻弄(ほんろう)される夫。アメリカに対する憧れと恨み。相反する思いをどこかユーモラスに描いた『アメリカひじき』。空襲で母を亡くし、孤児となってしまった兄妹の悲劇的な行く末を描き、アニメ化もされた『火垂るの墓』。直木賞受賞作の表題2作に加え、風化寸前のアパートで孤独死した母との思い出をつづった「焼土層」。出産がきっかけとなり、戦時中に犯した罪の意識に苛まれて病んでいく主婦を描いた「死児を育てる」。空腹のあまり、食べた物を反すうするようになった少年のあくなき食への渇望とその顛末(てんまつ)を描いた「ラ・クンパルシータ」など、全6編を収録。大阪弁を交えた多弁な文体からは、戦争のむごたらしさ、そして人間の本能といやらしさが生々しく浮かび上がってくる。先の見えない現代に生きる身だからこそ、戦争、そして生きるということについて改めて思いをはせたい。