グランド・フィナーレ
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3.0 • 2件の評価
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- ¥520
発行者による作品情報
「2001年のクリスマスを境に、我が家の紐帯(ちゅうたい)は解(ほつ)れ」すべてを失った“わたし”は故郷に還る。そして「バスの走行音がジングルベルみたいに聞こえだした日曜日の夕方」2人の女児と出会った。神町(じんまち)――土地の因縁が紡ぐ物語。ここで何が終わり、はじまったのか。第132回芥川賞受賞作。〈解説・高橋源一郎〉これは、「人間」も「人間」の形をしたものにすぎないものも区別できない「小説」らしきものが横行するこの時代に登場した、ほんとうに数少ない「小説」の一つなのである。――<解説より>
APPLE BOOKSのレビュー
第132回(2004年下半期)芥川賞受賞作。ロリータコンプレックスという背徳を負った男の行き着くべき場所を、いかに安易な救いや断罪に逃げることなく示すことができるか…という、文学としてのストイックな挑戦に臨んだ一作。その志の高さと成果に、過去にも『アメリカの夜』や『ニッポニアニッポン』が芥川賞候補に挙がった阿部和重が、本作でついに受賞と相成ったのも納得がいく。自分の娘を含む、少女たちの裸の写真を所持していたことが発覚して妻と離婚し、愛する娘とも二度と会えなくなった主人公の沢見。田舎の実家に戻った彼は、地元の小学校の教師をしている同級生から、2人の少女の演劇の監督を頼まれる。しかし彼女たちは、彼に自殺願望をほのめかすのだった。沢見の一人称で語られる物語の感触は、あくまでもドライ。自己憐憫(じこれんびん)や言い訳を封じたその語り口は、彼自身による罰のようにも思える。沢見の罪と、少女たちの命。本作はその二つの明確な“グランド・フィナーレ(大団円)”を描くことはない。むしろ見失ったフィナーレの代わりに次の章が始まるような結末にこそ、かすかな希望は宿っているのかもしれない。