ブエノスアイレス午前零時
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4.0 • 2件の評価
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- ¥480
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発行者による作品情報
盲目の老嬢と孤独な青年が温泉旅館でタンゴを踊る時、ブエノスアイレスの雪が舞う。希望と抒情とパッションが交錯する希代の名作。第一一九回芥川賞を受賞、あらゆる世代の支持を受けたベストセラー、待望の文庫化。
APPLE BOOKSのレビュー
第119回(1998年上半期)芥川賞受賞作。人生を諦めたかに思える青年と盲目の老女が出会い、2人の孤独が響き合うさまが悲しくも美しい一作。東京から田舎に戻ってきたカザマは、地元の温泉宿で働きながら鬱々(うつうつ)とした日々を過ごしていた。温泉宿には古びたダンスフロアがあり、彼は社交ダンスグループの一人としてやって来た老女のダンスの相手をすることになる。盲目で、認知症が深刻な状態にある彼女は、かつて横浜で外国人相手の娼婦をやっていたという。タイトルの『ブエノスアイレス午前零時』はアルゼンチンタンゴの巨匠、アストル・ピアソラの曲から採られている。本作におけるタンゴは、老女がかつて愛した異国の誰かを想起させるものだ。硫黄の匂いが立ち込めた雪深い温泉宿と、タンゴが流れる官能的な異国の夜のイメージの落差は、物語に幻想的な趣と物寂しさを与える。都会で何かを失い、諦念の只中にある青年と、視力と朧(おぼろ)げな記憶さえも失いかけている老女。そんな2人が踊る時、それぞれが失ったもののかつての輝きがほんの一瞬、走馬灯のようによみがえる感覚に胸を打たれるだろう。表題作に加え、短編の『屋上』を併録。