土
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3.8 • 13件の評価
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発行者による作品情報
「土」は明治から大正時代の歌人、小説家である長塚節の小説。この作品は、人はなぜ生きるのかやどうすれば幸せになれるのかや漱石が描いた(近代的)自我の葛藤などとは無縁の人間たちのありのままの姿を描いた物語である。
APPLE BOOKSのレビュー
正岡子規の門下で歌人としても活躍した長塚節による唯一の長編小説。故郷である茨城の鬼怒川沿いに暮らす貧しい一家の日々をつづった農民文学を代表する作品だ。明治時代、夏目漱石の推薦で新聞に連載された。小作農を営む勘次の一家は、それだけでは食べていけず、勘次が日雇いや出稼ぎの仕事に出る一方、その妻、お品も細々とした行商をし、なんとか生活を成り立たせている。ところがある日、お品が病で死んでしまう。15歳になる娘のおつぎは幼い弟、與吉の面倒をみながら父の野良仕事を手伝うようになった。やがてお品の養父である卯平も一緒に暮らし始めるが、勘次と卯平は以前から折り合いが悪い。そして、一家を再び悲劇が襲う…。慎ましく暮らす人々の営み、四季折々の自然や風俗行事を、執拗(しつよう)に、綿密に描写していく。ドラマチックな展開はほとんどなく、登場人物のせりふがすべてなじみの薄い方言でつづられていることもあり、決して読みやすいとは言えないが、徹底したリアリズムを貫く情景描写は独自の境地に達している。数多くの写生文や紀行文を執筆してきた著者の集大成であり、飾りのない人間の生々しい暮らしぶりは一読の価値があるだろう。