失われた貌
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4.0 • 7件の評価
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- ¥2,000
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発行者による作品情報
山奥で、顔を潰され、歯を抜かれ、手首から先を切り落とされた死体が発見された。事件報道後、警察署に小学生が訪れ、死体は「自分のお父さんかもしれない」と言う。彼の父親は十年前に失踪し、失踪宣告を受けていた。無関係に見えた出来事が絡み合い、現在と過去を飲み込んで、事件は思いがけない方向へ膨らみ始める。
APPLE BOOKSのレビュー
意外性の連鎖と錯綜する人間関係、鮮やかな伏線回収が光る警察小説。『サーチライトと誘蛾灯』『蝉かえる』など、昆虫好きの青年、魞沢泉を素人探偵役にしたシリーズを手掛け、ミステリー短編作家として高く評価されている櫻田智也の初長編作。J県の山中で発見された男性の変死体は、顔を潰され、歯を抜かれ、両手首も切断されていた。連絡を受けた県警媛上警察署捜査係長の日野警部補は、部下の入江と共に捜査に当たる。身元を特定する手がかりがない中、別の変死体が見つかり、両者のつながりが明らかになっていくのだが…。ミステリーとしては古典的な“顔のない死体”のテーマを扱いながら、不審者の児童への声かけ、地元新聞に寄せられた警察への苦情、失踪した父親を捜す小学生、因縁のある同期の警部の不可解な行動など、さまざまな出来事と思惑が事件を構成する要素となり、真相には容易にたどり着けない。管轄のあつれきといった警察小説の作法はあるものの、日野の視点で事件の様相が次々と変わり、次の仮説へ移行していく展開は、さながらコリン・デクスターのモース警部シリーズと通じる多重解決ミステリーといってもいいだろう。