存在のすべてを
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発行者による作品情報
平成3年に発生した誘拐事件から30年。当時警察担当だった新聞記者の門田は、旧知の刑事の死をきっかけに被害男児の「今」を知る。再取材を重ねた結果、ある写実画家の存在が浮かび上がる。質感なき時代に「実」を見つめる者たち──圧巻の結末に心打たれる、『罪の声』に並び立つ新たなる代表作。
APPLE BOOKSのレビュー
重厚な社会派サスペンスに定評のある塩田武士が、誘拐事件をモチーフにしたミステリー。1991年12月11日、厚木市内で少年が誘拐された。神奈川県警は身代金目的誘拐事件として捜査本部を設けるが、くしくも翌日の午後2時に、4歳の孫が誘拐され、身代金を要求されたという110番が入る…。誘拐をテーマにした作品は古今東西枚挙にいとまがないが、本作では「二児同時誘拐」という設定を盛り込んで新機軸を打ち出している。だが、この誘拐事件の顛末(てんまつ)を語るスリリングな冒頭50ページが、あくまで「序章」と位置付けられているところに著者のたくらみがある。しかも、誘拐された少年が行方不明のまま、3年後に無事戻ってくるところから物語の幕が上がる。一人の新聞記者が真実を求めて取材を重ねる中で浮かびあがる、写実画家の存在と写実絵画が訴えるリアリズムという概念が、作品に奥行きを与えていることも特筆したい。「不可能だから信じられる」。SNSやネットの流言に惑わされず、“質感なき時代に実を見つめる”大切さを訴えた、著者のキャリアを総括するような心震える傑作だ。涙なくしては読み進めることのできない、家族愛の物語でもある。
カスタマーレビュー
夢漁る者
、
美しい。
涙と鳥肌が止まらない。