完全版 年金大崩‪壊‬

APPLE BOOKSのレビュー

メディアや官僚問題を中心に執筆を行うジャーナリスト、岩瀬達哉の「完全版 年金大崩壊」。2000年の年金法改正をきっかけに大きく注目されることになった年金制度の実態について、多くの資料やデータに当たり、綿密な取材と合わせてまとめ、2007年に上梓した一冊。実証を基に、官僚による年金利権の構造や年金行政の闇をあぶり出している。中でも保養施設事業に関して、その計画の不備や年金の掛け金浪費の実情が数値と共に検証されており、一読する価値がある。社会保険庁が年金の納付率や外国との年金制度比較の中でデータ操作したことを明らかにし、日本の年金制度の現状をよく見せようとミスリードしようとしたという切り込みは鋭い。天下りのあり方からは官僚の自己保身が、取材での行政側の担当者とのやり取りからは彼らの責任放棄とも言える姿勢などが浮かび上がる。さまざまな数値、事業名、施設名などが登場するが、天下り団体と年金福祉施設の変遷や事業計画と実態の乖離（かいり）などを図版化して、論旨をつかみやすくしている。日本の年金制度の問題点を捉え直すための好著。