



対馬の海に沈む
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4.4 • 14件の評価
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- ¥2,400
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発行者による作品情報
2024年 第22回 開高健ノンフィクション賞 受賞作。
JAで「神様」と呼ばれた男の溺死。
執拗な取材の果て、辿り着いたのは、
国境の島に蠢く人間の、深い闇だった。
【あらすじ】
人口わずか3万人の長崎県の離島で、日本一の実績を誇り「JAの神様」と呼ばれた男が、自らが運転する車で海に転落し溺死した。44歳という若さだった。彼には巨額の横領の疑いがあったが、果たしてこれは彼一人の悪事だったのか………? 職員の不可解な死をきっかけに、営業ノルマというJAの構造上の問題と、「金」をめぐる人間模様をえぐりだした、衝撃のノンフィクション。
【選考委員 大絶賛】
ノンフィクションが人間の淋しさを描く器となれた、記念すべき作品である。
――加藤陽子(東京大学教授・歴史学者)
取材の執拗なほどの粘着さと緻密さ、読む者を引き込む力の点で抜きん出ていた。
――姜尚中(政治学者)
徹底した取材と人の内なる声を聞く聴力。受賞作に推す。
――藤沢 周(作家)
地を這う取材と丁寧な資料の読み込みでスクープをものにした。
――堀川惠子(ノンフィクション作家)
圧巻だった。調査報道の見本だ。最優秀な作品として推すことに全く異論はない。
――森 達也(映画監督・作家)
(選評より・五十音順)
【著者プロフィール】
窪田新之助(くぼた しんのすけ)
ノンフィクション作家。1978年福岡県生まれ。明治大学文学部卒業。2004年JAグループの日本農業新聞に入社。国内外で農政や農業生産の現場を取材し、2012年よりフリーに。著書に『データ農業が日本を救う』『農協の闇(くらやみ)』、共著に『誰が農業を殺すのか』『人口減少時代の農業と食』など。
APPLE BOOKSのレビュー
長崎県の離島、対馬で車ごと海に沈んだJA職員の死により明るみに出た巨額の不正流用事件は、なぜ起きたのか。日本農業新聞の元記者で、農政や農業の現場を取材し、日本の農業の仕組みの問題を追及してきた著者が『農協の闇』に続き、巨大組織と日本の村社会の暗部に迫る。2019年2月、JA対馬の職員だった西山義治が、自ら運転する車で岸壁から海に転落し、溺死した。享年44。西山は、過疎化が進む人口3万人余りの島で、なぜかJAの共済(保険)事業のセールスで全国トップの実績を上げていた。西山の死後、22億円もの横領疑惑が公になり、転落事故は自殺とみられる中、不正の責任は西山1人に負わされる。だが、これほど巨額の不正を1人で働けるものなのか。著者は現地で関係者の証言を引き出し、自然災害の被害の捏造(ねつぞう)や、顧客から通帳や印鑑を預かり架空契約を繰り返して歩合給を得るなど、西山の大胆な不正の手口を明らかにしていく。そして過大なノルマ達成のために、内部告発を黙殺し不正を容認するJAの幹部や組織風土、あわよくば得したいという地域社会の無自覚な共犯性も浮かび上がらせる。丹念な取材で日本社会の構造的な闇をあぶり出し、2024年開高健ノンフィクション賞を受賞した渾身(こんしん)の一作。