弥勒(みろく)の月
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- ¥550
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発行者による作品情報
小間物問屋・遠野屋(とおのや)の若おかみ・おりんの水死体が発見された。同心・木暮信次郎(こぐれしんじろう)は、妻の検分に立ち会った遠野屋主人・清之助(せいのすけ)の眼差しに違和感を覚える。ただの飛び込み、と思われた事件だったが、清之助に関心を覚えた信次郎は岡っ引・伊佐治(いさじ)とともに、事件を追い始める……。〃闇〃と〃乾き〃しか知らぬ男たちが、救済の先に見たものとは? 哀感溢れる時代小説!
APPLE BOOKSのレビュー
『バッテリー』など児童文学で著名なあさのあつこによる本格時代ミステリー小説「弥勒シリーズ」の1作目『弥勒の月』。舞台は江戸。小間物問屋遠野屋の若おかみ、おりんが夜の冷たい川に身投げをした。北定町廻り同心、木暮信次郎と岡っ引の伊佐治は妻の遺体を前にしても動揺もなく冷静な遠野屋清之介の様子に不審感を抱く。そして、おりんの最後の姿を目撃した履物問屋稲垣屋、惣助までも何者かに惨殺される。次々と起こる事件に深い闇を感じた信次郎は伊佐治と共に事件の真実を追うのだが…。一癖ある切れ者の若い信次郎と、唯一彼をうまくいさめる情に厚い伊佐治の捕物コンビが物語に絶妙なスパイスを与えている。何かを隠す清之介との対話と間合いを通した三者のせめぎあいが胸を打つ。清之介の冷静さにひそむ怒りと悲しみ。闇の中で謎が少しずつ解けてくるにつれて浮かび上がってくる人間模様と新事実に心が苦しくなる。巻末、桜の花が舞い散るうららかな春の日に初めて出会ったおりんと清之介の2人がありありと目に浮かんでくる切なさがまた物悲しい。人間の持つ闇と光を繊細な筆致で描き上げた人間ドラマ。