我が手の太陽
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- ¥1,600
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発行者による作品情報
第169回芥川賞候補作。
鉄鋼を溶かす高温の火を扱う溶接作業はどの工事現場でも花形的存在。その中でも腕利きの伊東は自他ともに認める熟達した溶接工だ。そんな伊東が突然、スランプに陥った。日に日に失われる職能と自負。野球などプロスポーツ選手が陥るのと同じ、失った自信は訓練や練習では取り戻すことはできない。現場仕事をこなしたい、そんな思いに駆られ、伊東は……。
“「人の上に立つ」ことにまるで関心がった。
自分の手を実際に動かさないのなら、それは仕事ではなかった。”
”お前が一番、火を舐めてるんだよ”
”お前は自分の仕事を馬鹿にされるのを嫌う。
お前自身が、誰より馬鹿にしているというのに”
腕利きの溶接工が陥った突然のスランプ。
いま文学界が最も注目する才能が放つ異色の職人小説。
APPLE BOOKSのレビュー
スランプに陥った経歴20年のベテラン溶接工の姿を硬質な筆致で描いた職人小説『我が手の太陽』。第169回芥川賞候補作。伊東は自他共に認める技術の高い溶接工であったが、突然スランプに陥ってしまう。自身の仕事に誇りを持っていた伊東は、自分が手掛けた溶接がまさかのフェール(不合格)だったと検査員に告げられ、現実を受け入れることができない。そしてさらに、現場で安全帯を付けずに作業をするという大きなミスを犯してしまう。溶接現場を外された伊東の焦燥感といら立ち、人間の弱さを垣間見る自己対峙は静かに熱く心にのしかかる。誰しもが経験するであろう腕の衰えを認めることは難しい。自らのプライドにがんじがらめになった彼の自問自答は人間の深淵をのぞくようだ。太陽と同じレベルの温度の火を扱う溶接工の仕事や現場、その世界の裏側が丁寧に描写されたお仕事小説としても優れており、『我が友、スミス』や『ケチる貴方』で注目の新鋭作家、石田夏穂の新境地ともいえる作品。