押絵と旅する男
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Publisher Description
魚津に蜃気楼を見に行った帰りの汽車で、“私”は車窓に額縁のようなものを立てかけている男に出会う。それは、洋装の老人と振袖を着た少女の押絵細工だった。まるで生きているかのような生々しさに息をのむ“私”に、男は「あなたなら分かってもらえそうだ」と、押絵の二人につい語り始める。老人は自分の兄であり、浅草の十二階から遠眼鏡で覗いたことがきっかけで、押絵の中に入ってしまったのだ……。
江戸川乱歩自ら「私の短篇の中ではこれが一番無難だといってよいかも知れない」と評した『押絵と旅する男』は、1929(昭和4)年の「新青年」6月号に発表された。前年に一度書き上げた原稿がどうしても気に入らず、名古屋の大須ホテルでトイレに原稿を破り捨ててしまったというエピソードが残されている。
押絵の中で夢と現実が交錯し、奇妙な恋物語を紡ぎ合う老人と少女。「愛と恐怖は紙一重」の夢幻世界がそこにある。
この作品には、昨今では不適切として受け取られる可能性のある表現が含まれますが、当時の時代背景、表現およびオリジナリティを尊重し、そのままの形で作品を公開します。