檜垣澤家の炎上(新潮文庫)
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3.0 • 5件の評価
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発行者による作品情報
横濱で知らぬ者なき富豪一族、檜垣澤家。当主の妾だった母を亡くし、高木かな子はこの家に引き取られる。商売の舵取りをする大奥様。互いに美を競い合う三姉妹。檜垣澤は女系が治めていた。そしてある夜、婿養子が不審な死を遂げる。政略結婚、軍との交渉、昏い秘密。陰謀渦巻く館でその才を開花させたかな子が辿り着いた真実とは――。小説の醍醐味、その全てが注ぎこまれた、傑作長篇ミステリ。(解説・千街晶之)
APPLE BOOKSのレビュー
数々の思惑が渦巻く名家に引き取られた妾の子が生き残りを懸けて知略を尽くす成長小説。大逆事件、雲井町大火、第一次世界大戦と戦後恐慌、スペイン風邪の流行など、明治末期から大正時代の史実を交えてつづられた豊潤な物語は、小説本来の魅力にあふれている。高木かな子は、絹織物を中心に扱う横浜きっての貿易商、檜垣澤家の当主である要吉が、妻ではなかった高木ひさに産ませた子。母が急死し、檜垣澤家に引き取られたかな子は、卒中で倒れた父、要吉の世話をすることに。一方、商売を取り仕切るのは大奥様と呼ばれる本妻のスヱ。スヱには花と初という娘がおり、さらに花には三人娘がいる女系家族の檜垣澤家。そこでは、スヱがすべてを決めている。花の婿、辰市が蔵の火災で亡くなった後、父が世を去り、後ろ盾を失ったかな子は、使用人や書生たちの会話に耳を澄ませて記憶し、女たちから気に入られる術を身につけていく。いつかスヱ以上のものを手に入れるという野心を隠して…。繁栄を極めた女系一族の人間模様を描いた絢爛(けんらん)たる小説絵巻であり、大家族の秘めた謎を巡るミステリーとしても楽しめる大長編。