



永遠の旅行者(上)
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3.8 • 37件の評価
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- ¥620
発行者による作品情報
元弁護士・真鍋に、見知らぬ老人麻生から手紙が届く。「二十億の資産を息子ではなく孫に相続させたい。ただし一円も納税せずに」重態の麻生は余命わずか、息子悠介は百五十億の負債で失踪中、十六歳の孫まゆは朽ちた家に引きこもり、不審人物が跋扈する。そのとき、かつてシベリア抑留者だった麻生に殺人疑惑が浮上した――。謎とスリルの上巻。
APPLE BOOKSのレビュー
経済に関するビジネス書やフィクションなどの著書を多数持つ作家・橘玲による長編小説「永遠の旅行者(上)」。元弁護士・真鍋の元に届いた余命わずかな老人の依頼をめぐり、繰り広げられる事件を描く。テーマとなるのは「租税逃れ」。タイトルの「永遠の旅行者」とは、どの国の居住者にもならず、納税義務を逃れた自由な生き方を指す。そんな暮らしを実践する真鍋が見知らぬ老人から引き受けた依頼が、巨額の資産を国に一円も納税せずに孫に相続させるというものだった。億単位のお金をめぐり、ハワイ、東京、香港と国をわたるスケールの大きな物語で、経済小説だがハードボイルド小説のようなスリルも味わえる。納税、相続、税金逃れなどのキーワードを難解に感じる読者も多いであろうが、ミステリー仕立てでテンポよく展開していくので、経済知識を深めながら読み進められる。また、悠々自適に思えながらも、どこか哀愁が漂う真鍋の姿も魅力的。さまざまなお金の流れの向こうに著者が見据えているのは経済問題のみならず、お金にひもづく人間の感情や欲望、そして人はいかにして生き抜くべきかという普遍的なテーマで、自らの生き方を問い直すきっかけを与えてくれる。