江戸は浅草
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- ¥750
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発行者による作品情報
雷門で掏摸に遇い路頭に迷っていた真一郎は、貧乏長屋の大家・久兵衛に用心棒兼遣い走りとして拾われる。向かいは真夜中に面を打つ謎の美女・多香、隣は女のヒモで洒落者の笛師・大介。長屋で気ままに暮らす住人たちが、町の騒動に立ち向かう。江戸っ子の粋と人情、そして色恋も鮮やかな新シリーズが開幕!「六軒長屋」「猫殺し」「夏の獲物」「錠前破り」の傑作四話収録。
APPLE BOOKSのレビュー
下町の貧乏長屋を舞台に人情噺(にんじょうばなし)が展開する、小粋で艶やかな人気短編シリーズの第1作。両替商のご隠居に拾われ、浅草小路に並ぶ長屋の一つに用心棒兼雑用係として住むことになった主人公。図体は大きく、鬼にも幽霊にも動じない胆力を持ちながら、すりに財布を盗まれるなど、ちょっと抜けたところがあり親近感が湧く存在。さらに長屋の向かいに住む謎の美女、隣に住む女たらしの笛師など、クセのある面々が長屋というコミュニティの中で絶妙な距離感を保ちながら連帯していく。派手なチャンバラシーンもなく、世間を騒がせるような大事件もないが、江戸に暮らす町民たちの悲喜こもごもが生き生きと描かれている。元銀行員でカナダ在住という、異色の時代小説家の洒脱(しゃだつ)な文体が世界観とマッチし、矢師や面打ち、笛師に胡弓弾きなど、実際に江戸時代に存在した職人たちの仕事ぶりや、浅草の町並みが巧みに描写されている。御隠居から世間話でも聞いているかのようにストーリーに引き込まれ、数々のエピソードに心が揺さぶられる。