短くて恐ろしいフィルの時代
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- ¥880
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発行者による作品情報
脳が地面に転がるたびに熱狂的な演説で民衆を煽る独裁者フィル。国民が6人しかいない小国をめぐる奇想天外かつ爆笑必至の物語。ブッカー賞作家が生みだした大量虐殺にまつわるおとぎ話。
APPLE BOOKSのレビュー
現代アメリカを代表する鬼才ジョージ・ソーンダーズによる、奇妙かつグロテスクで滑稽だけど恐ろしい、大人の寓話。あまりに小さすぎて国民が一度に一人しか住めない“内ホーナー国”と、それを取り囲む途方もなく大きな“外ホーナー国”。国境付近でこそこそと身を寄せ合い、自分の国に住む順番待ちをしている内ホーナー人と、脚をいっぱいに伸ばしてのうのうとコーヒーを飲む外ホーナー人は、もともと不仲だった。そして、ある日突然“内ホーナー国”がさらに小さくなり、その時に住んでいたエルマーの体の4分の3が国外に出てしまったことから、国境付近は一触即発の状態に。そこに現れたのは「税金を取ればいいのさ」と言い放つフィルだった…。機械のスクラップや動植物のパーツでできた国民という極端に誇張された突拍子もない設定、とぼけた大統領や日和見主義の補佐官といったシュールなキャラクターなど、コミカルな要素も満載だが、熱狂的な大演説で物事を単純化し、独裁者にのし上がるフィルは風刺の域を超える空恐ろしさ。ジョージ・オーウェルの『動物農場』とも比肩する、ブッシュ政権下で書かれながらトランプ時代をも予見していた傑作。岸本佐知子の訳も素晴らしい。