石黒くんに春は来ない
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3.8 • 4件の評価
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- ¥660
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発行者による作品情報
どうせ人生、幽霊部員。『響け!ユーフォニアム』著者が贈る、衝撃の学園ミステリーどんでん返しの連続に、あなたはついてこられるか!? スキー教室の夜、姿を消した少年は、雪山の中で救助されるが意識不明の重体。クラスメイトとの人間関係に問題があったと申し立てる保護者は、入院したままの少年を転校させた。バツの悪い思いをしながらも、日常生活を取り戻した生徒たちに、突然、少年からのメッセージが届き……。
APPLE BOOKSのレビュー
2013年に等身大の高校生を描いた青春小説でデビューした武田綾乃。本作では青春の苦い側面に焦点を当てている。物語の軸となるのは、スキー合宿で行方不明になり、その2日後に救助されるも意識不明のまま入院してしまった高校生、石黒和也。舞台はそれから半年後、高校2年生になった彼の同級生たちの学生生活へ移る。石黒が行方不明になった日に彼に告白されていた、読者モデルを務める京香の周囲で起こる小さなひずみが次第に大きな波となり、同級生たちを飲み込んでいく。物語の展開には、SNSが重要な役割を果たしている。多人数の会話がSNSの書き込みとして記されており、ここで登場人物それぞれの個性を巧みに表現し、また集団としての合意が形成されていく様子もつぶさに描き出している。高校の校内カーストや、目立つ生徒に日和って本質的な問題を解決できない教師など、現実に存在する問題をやや皮肉な筆致で綴っているのも印象的だ。語り部の役割を担う同級生の一人である恵美が、京香を追いつめる黒幕を探るミステリーであると同時に、10代の少年少女たちが内包する人間関係の苦悩も掘り下げている。最後の挿話を読んだあと、その切なさに再読したくなる。