翠雨の人
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- ¥2,000
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発行者による作品情報
「雨は、なぜ降るのだろう」。少女時代に雨の原理に素朴な疑問を抱いて、戦前、女性が理系の教育を受ける機会に恵まれない時代から、科学の道を志した猿橋勝子。戦後、アメリカのビキニ水爆実験で降った「死の灰」による放射能汚染の測定にたずさわり、後年、核実験の抑止に影響を与える研究成果をあげた。その生涯にわたる科学への情熱をよみがえらせる長篇小説。
APPLE BOOKSのレビュー
日本で女性の地球科学者の先駆者として、研究活動だけでなく科学者たちの道を切り開いた猿橋勝子の波乱に満ちた人生を描く『翠雨の人』。『藍を継ぐ海』で直木賞を受賞した伊与原新が、自身も科学者として研究に従事していた経験とその視点からつづる本作には、彼らの葛藤や情熱、ジレンマを追体験するようなリアリティがある。「なぜ雨は降るのか」と小さいころから空を見上げながら自然の不思議にわくわくしていた勝子は、女性の進学が難しかった時代に、日本で初めて女性のために設立された帝国女子理学専門学校に入学する。そこで生涯の師匠と出会ったことによって、彼女は中央気象台で研究者としての道を歩み始める。しかしこの時代は、科学者たちの夢と情熱を戦争への技術に利用する現実が広がっていた。勝子は「科学に関わることは、責任を負うこと」という師の言葉を胸に、科学の未来への可能性のために進む覚悟を決めるのだった。科学者たちの軌跡をたどりながら、今の私たちが次の世代にどんな世界を手渡していくのか、そんな普遍的な課題をも考えさせられる作品だ。