風の市兵衛[1‪]‬

APPLE BOOKSのレビュー

「夜叉萬同心」や「日暮し同心始末帖」などの時代小説シリーズで多くの読者を魅了してきた辻堂魁による人気シリーズ「風の市兵衛」の1作目。"風の剣"を揮（ふる）う侍でありながら、算盤で武家商家の台所事情を担うさすらいの渡り用人、唐木市兵衛が今作の主人公。時は文政4年、柳原堤下の川縁で男女の心中死体が発見された。男の身元は旗本高松家六代目当主の道久であり、遺された妻と幼い息子は彼の死と借金、そして今後のやりくりに途方にくれていた。そこへ渡り用人として市兵衛が雇われ、収支を調べ始めたところ、心中事件の裏側に大きな陰謀が渦巻いていることに気づく…。おそるべき剣の達人でありながら、その腕前を誇らぬ謙虚さや情深さを持つ、市兵衛の懐の深い人間性も本作の魅力の一つ。市井の人々の味方として悪事を成敗し、風のように去っていくヒーローの今後の活躍を予感させる一作目となっている。