黒いトランク
鬼貫警部シリーズ
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3.6 • 7件の評価
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- ¥660
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発行者による作品情報
千九百四十九年も押し詰った鬱陶しい日の午後、汐留駅前交番の電話のベルが鳴り、事件の幕が切って落とされた。トランクに詰められた男の腐乱死体。荷物の送り主は福岡県若松市近松千鶴夫とある。どうせ偽名だろう、という捜査陣の見込みに反し、送り主は実在した。その近松は溺死体となって発見され、事件は呆気なく解決したかに思われた。だが、かつて思いを寄せた人からの依頼で九州へ駆けつけた鬼貫の前に青ずくめの男が出没し、アリバイの鉄の壁が立ち塞がる……。巨星、鮎川哲也の事実上のデビュー作であり、戦後本格の出発点ともなった里程標的名作。綿密な校訂による決定版!
APPLE BOOKSのレビュー
戦後60年間、本格推理小説の第一人者として活動してきた巨匠、鮎川哲也。本作は1956年に鮎川名義でデビューした「黒いトランク」を、本人と東京創元社編集部が過去の版を参考に校訂し、2002年1月に発表したもの。同年9月に鮎川が逝去したため、これが決定版となった。東京の巨大貨物駅、汐留駅で腐乱死体入りの黒いトランクが見つかり、容疑者らしき人物が死体で発見される。事件は解決するかと思われたが、鬼貫(おにづら)警部は小さなほころびから真犯人の存在に気づく。物証と証言、真犯人が移動に使った電車の時刻表のみから真相の究明を試みるが、捜査をすればするほど犯人のアリバイは鉄壁となっていく。まだ新幹線はなく、国内線の飛行機もなかった1949年当時、東京~九州間の移動は1日がかりの長旅だった。文中には時刻表が掲載されており、鬼貫が執念の捜査でアリバイを崩す推理の組み立てを追うことができる。事件の新発見が明かされる、巻末の人気推理作家の北村薫と有栖川有栖らによる鼎談(ていだん)も必読。