サイレントシンガー
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4.0 • 1件の評価
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- ¥1,900
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発行者による作品情報
著者6年ぶり、世界が待ち望んだ長篇小説400枚。
内気な人々が集まって暮らすその土地は、“アカシアの野辺”と名付けられていた。たったひとりの家族であるおばあさんが働いているあいだ、幼いリリカは野辺の老介護人に預けられて育った。野辺の人々は沈黙を愛し、十本の指を駆使した指言葉でつつましく会話した。リリカもまた、言葉を話す前に指言葉を覚えた。たった一つの舌よりも、二つの目と十本の指の方がずっと多くのことを語れるのだ。
やがてリリカは歌うことを覚える。野辺の重要な行事である“羊の毛刈り”で初めて披露された彼女の歌は、どこまでも素直で、これみよがしでなく、いつ始まったかもわからないくらいにもかかわらず、なぜか、鼓膜に深く染み込む生気をたたえていた。この不思議な歌声が、リリカの人生を動かし始める。歌声の力が、さまざまな人と引き合わせ、野辺の外へ連れ出し、そして恋にも巡り合わせる。果たして、リリカの歌はどこへと向かっていくのか?
名手の卓越した筆は、沈黙と歌声を互いに抱き留め合わせる。叙情あふるる静かな傑作。
APPLE BOOKSのレビュー
しなやかで端正な言葉をつづり、静けさに包まれた美しい世界を描く作家、小川洋子の6年ぶりとなる長編小説。時代も場所も定かではない幻想的な世界を舞台に、一人の少女の人生譚を描く。内気な男性たちが集まって暮らす集落で、リリカは雑用係として働くおばあさんと暮らしている。その集落では、人々は言葉を必要とせず、自然と共につつましく生きている。やがてリリカは歌を覚え、集落の外に足を運び、歌の仕事でお金を稼ぐようになる。森に吹く風のように自然な響きを持つリリカの歌声は、彼女の世界を少しずつ押し広げていく…。リリカにとって歌とは自己表現ではなく、自然と同じように、ただそこにあるべきもの。その美しさとはかなさは、言葉が氾濫する現代において、ひときわ価値あるものに感じられる。沈黙がもたらす豊かな時間を描き、過ぎ去る日々の中で失われていくものや、胸をかすめる痛みをそっと浮かび上がらせる物語。沈黙と響き合う歌が、言葉を超えて響く。