しょっぱいドライブ
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3.1 • 7件の評価
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- ¥430
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発行者による作品情報
港町に暮らす34歳のミホが、九十九さん(なで肩で筋肉がなく七面鳥のように皮膚のたるんだ天然パーマのへなちょこ老人)と同棲するに至るまでの奇妙な顛末。就職の保証人を「いいですよう」とふたつ返事でひき受け、町内会長の葬式で見かけた別居中の妻と愛人から逃げ隠れる九十九さん。ゆったりと走る車からオレンジ色の海を見たり、はんぺんのように軟らかく湿った唇と唇を合わせたり…。「人間と人間関係を描ききった」と絶賛された芥川賞受賞の表題作ほか、二編収録。
APPLE BOOKSのレビュー
第128回(2002年下半期)芥川賞受賞作。長年同じ町に住んでいて、父をはじめ家族みんなが多大にお世話になっている九十九(つくも)さん。何度見ても印象がぼうっと薄くて、しゃべることに自信がなさげで、人が良い60過ぎの男。34歳のミホは、自分の住む町から高速バスで45分かけて地元の町に帰り、九十九さんの車でデートを重ねている。九十九さんと一緒にいながらも、ミホの頭にあるのは雲の上ならぬ、屋根の上の存在である地元のスター、遊さんのことばかり。九十九さんに対して底意地の悪い目線で見ながらも、見え隠れする愛情のような気持ちと、すぐにでも逃げだしたいような気持ちがある。心の中で常に遊さんを思ってしまう気持ちと、手に入らないものに対する諦めの気持ち。とっ散らかった感情に揺さぶられながら、唐突に九十九さんに一緒に暮らすことをもちかけるミホ。妻を寝取られても文句も言えずに放置している九十九さんの人となりも、そんな九十九さんの気の弱さに打算づくでつけこみ翻弄(ほんろう)するミホも、表題通り、確かにしょっぱい。キラキラ華やかな恋愛ものとは程遠い世界だけれど、このしょっぱさこそが人間なのだと腑に落ちてしまう一編。