終の住処
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- ¥380
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発行者による作品情報
結婚すれば世の中のすべてが違って見えるかといえば、やはりそんなことはなかったのだ──。互いに二十代の長く続いた恋愛に敗れたあとで付き合いはじめ、三十を過ぎて結婚した男女。不安定で茫漠とした新婚生活を経て、あるときを境に十一年、妻は口を利かないままになる。遠く隔たったままの二人に歳月は容赦なく押し寄せた……。ベストセラーとなった芥川賞受賞作。
APPLE BOOKSのレビュー
第141回(2009年上半期)芥川賞受賞作。主人公の「彼」は製薬企業に勤める会社員。長い間交際していた女性と別れ、同じように長く続いた恋愛に破れた妻と出会い、結婚する。だが、結婚すれば世の中のすべてが違って見えるかといえば、やはりそんなことはなかったのだ。そして歳月は容赦なく「彼」へと押し寄せて来る……。芥川賞受賞の表題作 「終の住処」 は、あらすじだけなら結婚への空しさや倦怠(けんたい)を描いた作品といえるかもしれない。しかし普段、何げなく過ごして細部が明瞭ではなくなっている日常の不可思議や齟齬(そご)をリアルに描くことで、シュールな世界が現出している。野放図なようでいて、たくらみに満ちた作品だ。「妻はそれきり11年、口を利かなかった——」などといった印象深い一文がそこかしこにちりばめられ、最後の一文などは、思わず諦念せざるを得ないような戦慄(せんりつ)さえ抱かせる。現実から浮遊しているようでいて、実はこれ以上ないほど現実を克明に描いた、無慈悲な運命論をも内包した会社員小説、という読み方もできそうな気がする。「ペナント」も同軸上にある作品だが、どこか筒井康隆をほうふつさせる、不可思議で郷愁を感じさせる描写が印象に残る。
カスタマーレビュー
独特の世界
久しぶりに小説を読んだ。磯崎新の作り出す空間は、時間や色が歪んでいる。少し落ち着かない空間だけれど、不快ではない。時になまめかしく、どこか冷めている。人生を達観したような、終わった人生を回顧しているような、今視点から描かれた世界に、期せずして引きずり込まれてしまった。