穴
-
-
3.4 • 10件の評価
-
-
- ¥510
-
- ¥510
発行者による作品情報
仕事を辞め、夫の田舎に移り住んだ私は、暑い夏の日、見たこともない黒い獣を追って、土手にあいた胸の深さの穴に落ちた。甘いお香の匂いが漂う世羅さん、庭の水撒きに励む寡黙な義祖父に、義兄を名乗る知らない男。出会う人々もどこか奇妙で、見慣れた日常は静かに異界の色を帯びる。芥川賞受賞の表題作に、農村の古民家で新生活を始めた友人夫婦との不思議な時を描く二編を収録。
APPLE BOOKSのレビュー
第150回(2013年下半期)芥川賞受賞作。現実世界と空想世界、境界線がぼんやりと曖昧で気が付くとどちらかの世界に足を踏み入れている。平凡な日常を描きながら、そこかしこに異界へとつながった見えない扉を見せるような不思議な全3編の物語。夫の実家の横にある空き家へ引っ越すことを決めた妻は、そこで奇妙な生き物や人々に出会う。黒い獣、いるはずのない義兄を名乗る男、雨の日も庭で水まきをする義祖父。暑い夏、田舎のじっとりとした空気の中で不穏さが見え隠れする芥川賞受賞の表題作「穴」。中国山地を後ろに控えた古民家をリフォームして住み始めた友人夫婦。彼らに会いに行った僕と妻。イタチが屋根裏に住み着いたことを悩む彼らに、妻が母イタチを駆除した昔話を話し始める「いたちなく」。2編目と登場人物は変わらずに、友人夫婦の家に泊まったある大雪の夜を描く「ゆきの宿」。3編に共通して漂っている空気は、そこはかとない不気味さ。白昼夢のような背景の中で、輪郭を持った人間たちのリアルな描写が際立ち、その陰影が不安をあおる。