スピノザの診察室
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- ¥1,900
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発行者による作品情報
現役医師として命と向き合い続けた著者が到達した、「人の幸せ」とは。
380万部のベストセラー『神様のカルテ』を凌駕する、新たな傑作の誕生!
その医師は、最期に希望の灯りをともす。
【あらすじ】雄町哲郎は京都の町中の地域病院で働く内科医である。三十代の後半に差し掛かった時、最愛の妹が若くしてこの世を去り、一人残された甥の龍之介と暮らすためにその職を得たが、かつては大学病院で数々の難手術を成功させ、将来を嘱望された凄腕医師だった。哲郎の医師としての力量に惚れ込んでいた大学准教授の花垣は、愛弟子の南茉莉を研修と称して哲郎のもとに送り込むが……。
●著者より読者の皆さまへメッセージ
医師になって二十年が過ぎました。
その間ずっと見つめてきた人の命の在り方を、私なりに改めて丁寧に描いたのが本作です。
医療が題材ですが「奇跡」は起きません。
腹黒い教授たちの権力闘争もないし、医者が「帰ってこい!」と絶叫しながら心臓マッサージをすることもない。
しかし、奇跡や陰謀や絶叫よりもはるかに大切なことを、書ける限り書き記しました。
今は、先の見えない苦しい時代です。
けれど苦しいからといって、怒声を上げ、拳を振り回せば道が開けるというものでもないでしょう。
少なくとも私の心に残る患者たちは、そして現場を支える心ある医師たちは、困難に対してそういう戦い方を選びませんでした。
彼らの選んだ方法はもっとシンプルなものです。
すなわち、勇気と誇りと優しさを持つこと、そして、どんな時にも希望を忘れないこと。
本書を通じて、そんな人々の姿が少しでも伝われば、これに勝る喜びはありません。
(夏川草介)
APPLE BOOKSのレビュー
現役の医師である著者が、医師たちの姿を通して死生観を問う医療小説。主人公の雄町哲郎はかつて大学医局で手腕を振るっていたが、家族の事情で京都の小規模な病院に移り、地域医療に取り組んでいる。患者は終末期を迎えた高齢者も多く、哲郎は一人一人の人生を見つめながら、最期までその人らしく生きるために全力を尽くす。日々葛藤しながらも医師として自分のなすべきことを考え続ける哲郎は、自然体でありながら凜とした魅力がある。また本作では地域医療だけでなく、大学で准教授を務める花垣辰雄を登場させ、先進医療の現場にも触れる。哲郎の盟友である花垣もまた自身の信条に沿って医療にまい進する医師であり、立場は違っても根底では通じ合う2人の関係性が物語にいっそう深みを与えている。タイトルのスピノザとは、哲郎に影響を与えたオランダの哲学者の名前。医学の知識だけではなく、時に哲学的な思考をもって人の命と向き合う医師たちの生きざまに心が熱くなる。哲郎が暮らす京都の街並みや、彼の大好物である甘味の描写も鮮やかで、重厚なテーマに柔らかさを加えている。