九月の恋と出会うまで
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- ¥570
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発行者による作品情報
「男はみんな奇跡を起こしたいと思ってる。好きになった女の人のために」―‐ある日北村詩織は、自室の壁の穴から“一年後の今日”を生きているという人物の声を聞いた。「平野です」その人物は、同じマンションに住む男性だという。半信半疑ながら、平野に言われた通りに行動する詩織。平野にはある目的があった――「書店員が選んだもう一度読みたい恋愛文庫第1位」に輝いた、時空を超えた奇跡のラブストーリー。
APPLE BOOKSのレビュー
日常にファンタジーを溶け込ませて、優しく温かな眼差しで不思議な世界を描き続ける松尾由美。本作は2019年に高橋一生と川口春奈のダブル主演で恋愛ファンタジーとして映画化されたが、原作はタイムリープが引き起こすミステリー色が強く、伏線もより巧妙に張られている。おっとりした主人公のモノローグがミスリードを誘い、ちりばめられた伏線を一気に回収するラストへとページをめくる手が止まらない。旅行会社に勤める志織は、隣人とのトラブルから新しいマンションに引っ越すことに。ある日、エアコンの配管口から、自分は1年後の世界に暮らしていると主張する、隣の部屋に住む男、平野から「毎週水曜日に今の世界に住む自分を尾行してほしい」と、妙な依頼を受ける。怪しみながらも好奇心に負けて協力することにした志織は、愛用のカメラを片手に出勤する平野を尾行する。3回目の尾行終了後、事態は激変し、尾行の目的が明らかになっていく。いわゆる巻き込まれ型のミステリーなのだが、志織自身に危機感や焦燥感がなく、謎解きがゆったりと進行していくためにファンタジー系少女マンガのような趣が。タイトルとカバーから恋愛小説を想像させるが、本質はよく練られたタイムトラベル小説である。