仮面病‪棟‬

APPLE BOOKSのレビュー

天才医師が活躍する『天久鷹央の推理カルテ』シリーズなど、現役内科医としての知識と経験を生かして、数多くの医療ミステリー作品を手掛けてきた知念実希人の『仮面病棟』。今作ではごく普通の医師を主人公に据えて、療養型病院で起きた籠城事件に巻き込まれる医療サスペンスに挑戦。2020年には自身初の映画化となり、大ヒットした。ピエロのマスクをかぶったコンビニ強盗犯が、人質に取り、銃創を負った女性を連れて夜の病院に籠城する。臨時の当直医だった速水は、強盗犯の言動と病院の不可解な構造に違和感を抱き、院長が身元不明の入院患者を率先して受け入れる真の意図に気づく。主な登場人物はたった6人の密室劇だが、医師の倫理観や人命の格差への批判も盛り込まれ、脱出劇に深みと苦さを与える。サスペンスにつきものの暴力描写や心理描写は最小限に削り、スピーディで焦燥感ある会話劇にグイグイと引き込まれる。ゲーム感覚で一気に読破できる作品。