哲学者の密室
矢吹駆シリーズ
-
- ¥1,600
-
- ¥1,600
発行者による作品情報
三つの事件を経て、矢吹駆に対する自分の感情を持て余していたナディア。そこに起こった新たな事件は、頭部を殴打され、背中に刺傷を負った死体が、誰も入ることのできぬはずの三重密室の中で発見される、という衝撃的なものであった。さらに、その謎を追う彼女の前に、第二次大戦中、コフカ収容所で起こった密室殺人事件が浮かび上がってくる。二つの事件の思想的背景には、二十世紀最大の哲学者のある謎が存在した。ナディアに請われ、得意の本質直観による推理で事件に立ち向かう矢吹駆の前には宿敵イリイチの影が……!? 現代本格探偵小説を生み出した大量死の謎をも解き明かす、シリーズ最高傑作の呼び声高い第4作。/解説=田中博
APPLE BOOKSのレビュー
伝奇小説の旗手としてのみならず、積極的な評論活動においても数多くの推理作家に影響を与えている笠井潔の大作「哲学者の密室」。名探偵・矢吹駆の活躍を描き、オカルトや哲学的な要素なども盛り込んだ独特の世界観が魅力の"矢吹駆シリーズ"の4作目。1970年代、パリのダッソー家の屋敷で起こった密室殺人の現場に残されていたナチスの短剣から、第2次世界大戦中にドイツのコフカ収容所で起きた三重密室殺人事件との関連性が浮上する。現代のユダヤ人富豪宅と過去の収容所での出来事が時を超えてリンクする重厚感あふれる密室ミステリーの側面と、ハイデガーを想起させる死の哲学者マルティン・ハルバッハの思想。死と密室性について対峙する哲学的要素が融合した同シリーズの一貫するスタイルを本作でも堪能できる。細部まで描かれた複数の登場人物の視点による推理・試行錯誤の過程や、スケールの大きな歴史ドラマ、著者の博識ぶりがうかがえる哲学パートなど、ミステリーとしての娯楽性と、思想書のような深みがバランスよくまとめられて成立した作品。