小説 琉球処分(上)
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発行者による作品情報
清国と薩摩藩に両属していた琉球――日本が明治の世となったため、薩摩藩の圧制から逃れられる希望を抱いていた。ところが、明治政府の大久保利通卿が断行した台湾出兵など数々の施策は、琉球を完全に清から切り離し日本に組み入れるための布石であった。琉球と日本との不可思議な交渉が始まったのである。
APPLE BOOKSのレビュー
明治時代に日本が琉球を併合した「琉球処分」の経緯を描いた意欲作。薩摩藩に隷属しながら、清国にも臣従していた琉球王国は、明治維新により薩摩藩の支配から脱し琉球藩となる。薩摩からの借金も帳消しにされ、喜びに沸く王や貴族たち。しかし事は、日本政府による台湾侵攻へとつながり、清国との断交を要求する「琉球処分」に発展していく。1967年に『カクテル・パーティー』で沖縄の作家として初の芥川賞に輝いた著者が、1959年から連載を始めた大作。単に日本を加害者、琉球を被害者とするのではなく、その場に生きた人々の時代認識の違いを克明に描く。民を困窮させながらも安穏としていた琉球王と貴族階級。そして時代の流れを読みながら困惑する民。一方で、琉球を支配下に置きたい日本政府にも、真に琉球の民と日本の民を同じと考えた者がいる。現在もくすぶる沖縄問題の始まりともいえる歴史の変換点が、小説という形をとりながらもリアルに感じられる。