愛を知らない
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- ¥1,600
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発行者による作品情報
高校二年の橙子は、クラスメイトとほとんどかかわることなく日々をやり過ごしてきた。支離滅裂な言動をとる変わり者と思われ、親しい友人もいないが、クラスメイトのヤマオからの推薦で、合唱コンクールのソロパートを任されることに。当初は反発したものの、練習を進めるにつれ周囲とも次第に打ち解けていく。そしてある事件をきっかけに明らかになった橙子の秘密とは―。心を強く揺さぶる感動の青春小説。
APPLE BOOKSのレビュー
愛されたいと願う2つの魂の相克。デビュー作の連作短編集『1ミリの後悔もない、はずがない』に続く、一木けいの第2作にして初の長編。合唱祭でピアノの伴奏をする涼は頭を抱えた。クラスメートがアルトのソロに推薦したのが橙子だったのだ。高校2年生で同じクラスになった橙子は涼の遠い親戚だが、支離滅裂で協調性がまるでなく、遅刻の常習犯。予想通り、やる気のなかった橙子だが、仲間と練習を重ねるうちに、少しずつ心を開いていく。ところが合唱祭を目前にして、橙子が抱えていた誰にも言えない秘密が明らかになり、彼女と仲間は引き裂かれてしまう…。“愛を知らない”娘と母の身を焦がすような葛藤がカットバックで描かれるが、橙子を語るのが“普通”である涼の視点というのが心憎い。高校生たちのみずみずしい友情も、感情を解きほぐしてくれるピアノ講師の冬香先生との会話も、不可解な橙子の言動の意味が分かり、“転調”が起きる壮絶な場面も、涼の“伴奏”があればこそ。クライマックスの合唱祭での“音楽”の描写も見事。感動的な青春小説だが、“愛を知らない”母が最後に見いだす希望も忘れがたい。