東京都同情塔
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- ¥1,900
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発行者による作品情報
ザハの国立競技場が完成し、寛容論が浸透したもう一つの日本で、新しい刑務所「シンパシータワートーキョー」が建てられることに。犯罪者に寛容になれない建築家・牧名は、仕事と信条の乖離に苦悩しながら、パワフルに未来を追求する。ゆるふわな言葉と実のない正義の関係を豊かなフロウで暴く、生成AI時代の預言の書。
APPLE BOOKSのレビュー
第170回芥川賞受賞作。ディストピア文学か、それとも私たちがいずれ向き合うことになる宿命の克明な描写か。九段理江の本作は、生成AIが日常的に使われるパラレルワールドの日本を舞台とした近未来SF小説だ。ザハ・ハディッド案の新国立競技場で、2020年の五輪が無事に開催された東京。そこでは新たな刑務所“シンパシータワートーキョー”の建設計画が進められている。設計を担う建築家の牧名は、犯罪者に寛容であるべきとする刑務所のコンセプトを受け入れられず苦悩していた。犯罪者が“ホモ・ミゼラビリス”と言い換えられたことで本来の意味を失っていくように、AIに依存した都市には、コンプライアンスの行き届いた心地良くも空疎な言葉が漂っている。言葉にひときわ強いこだわりを持つ牧名が状況に抵抗し、AIと対峙しながら欺瞞(ぎまん)の薄紙を破いていくさまが圧巻。牧名がそれでも諦めない未来は本作が発表された2020年代前半、AIが急速に大きな影響を及ぼし始めた日常を生きる私たちと確実に地続きであり、その迫り来る臨場感もリアルだ。九段が執筆の一部にAIを用いたと明かして議論を呼んだが、その試み自体もまた、本作の投げかけるメッセージを補強するものとなっている。