海賊とよばれた男(上‪)‬

APPLE BOOKSのレビュー

明治時代から石油に着目し、石油卸売から元売業者となり、現在はエネルギー事業全体にまで関わる、出光興産の創業者をモデルとした物語。マンガ化、映画化もされた歴史経済小説の傑作長編だ。終戦直後から始まり、海外資本のほとんどを失いながらも社員を一人も解雇しなかったというおとこ気、苦難の中でも新しい事業に突き進む覇気、己の信念を貫きながら国家と家族のために戦う勇気にあふれた創業物語。弱腰の日本政府や国内の同業他社連合からの締め出し、そしてGHQやセブンシスターズと呼ばれる欧米の石油メジャーとの対決まで、数多くの困難が主人公に降りかかる。さらには、イギリスに搾取されているイランから直接取引により石油を輸入するという「日章丸事件」のいきさつまで、力の入った筆致で詳細に描かれる。一流企業のトップが経営者の理想像として挙げる主人公の生きる姿が、読者の胸を熱くする。