炎環
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- ¥670
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発行者による作品情報
京の権力を前に圧迫され続けてきた東国に、ひとつの灯がともった。源頼朝の挙兵に始まる歴史のうねりは、またたくうちに関東の野をおおいはじめた。鎌倉幕府の成立、武士と呼ばれる者たちの台頭――その裏には、彼らの死にもの狂いの情熱と野望が激しく燃えさかっていた。鎌倉武士たちの生きざまを見事に浮き彫りにした傑作歴史小説にして第52回直木賞受賞作!
APPLE BOOKSのレビュー
源頼朝の挙兵から承久の乱まで、鎌倉幕府の興隆と動乱の時代を4つの連作短編で描いた歴史小説の傑作。昭和39年下半期第52回直木賞受賞作。頼朝の異母弟、阿野全成から見た頼朝や義経の実像と、妻の保子を通じて北条とのつながりを強めながら自ら宿望を果たさんとする隠された野心が描かれた「悪禅師」。頼朝を意のままに動かすと恐れられた側近、梶原景時の言動に秘められた真意に武士の本懐を見いだす「黒雪賦」。気性の激しい北条政子と一見お人好しに思われる妹、保子の複雑な姉妹関係に慄然とする「いもうと」。父、時政の黒子に徹しながら物静かに全てを見据え、やがては朝廷を従属させて権力の座に上りつめる北条義時を淡々とつづった「覇樹」。タイトルの“炎環”は作者の造語で、一人一人が燃やした命の炎が環になって歴史を形作ること。主人公が替わり、重なり合う出来事をそれぞれの視点で語るうちに4編が絡み合い、歴史は大きな流れとなっていく。権謀術数が渦巻く鎌倉時代に生きた脇役に光を当て、オムニバス形式で人間の業を描く作者の筆致は鋭い。作者の出世作にして原点。