熟れてゆく夏
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4.0 • 2件の評価
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発行者による作品情報
夏。北海道。瀟洒なリゾート・ホテル。共通の“女主人”を、それぞれの思いで待ち受ける、美しく不安な若い男女。ときに反発しあい、ときには狎れあいながら、たゆたゆと待つ日々が過ぎてゆく。女主人の望みはいったい何なのか? 愛と性のかかわりの背後にうごめくエゴイズムや孤独感、焦躁感、そして混沌とした愛欲の世界をあざやかに描いた表題作は、第100回直木賞受賞作。藤堂作品の原型がここにある。他に「鳥、とんだ」「三月の兎」の二篇を収録する。
APPLE BOOKSのレビュー
第100回(1988年下半期)直木賞受賞作。詩人としての活動を経て1987年にデビューし、恋愛小説やエッセイで活躍した藤堂志津子による『熟れてゆく夏』。律子はある夏の10日間を海沿いのホテルで贅沢(ぜいたく)に過ごすことになった。叔母の営む美容室で知り合った裕福な松木夫人に誘われたのだ。しかし、松木夫人が来るまでの数日間、彼女の愛人である紀夫と過ごすのが条件。紀夫は松木夫人の養子になろうともくろむ21歳の青年で、律子は粗野な紀夫が気に入らない。そもそも律子は男性を嫌悪しているのだ。それは幼いころ、同じ屋根の下で暮らした従姉の道子から送られてきた一冊の詩集がきっかけだった…。文中に登場する詩が重要な役割を果たすなど、詩を書いていた著者の経歴が生かされた表題作の他、堕胎した過去を持つ女性が実家で耳の病みただれた飼い犬のサスケと暮らす日々をつづった「鳥、とんだ」、3月になると得体の知れない情念にかられてしまう女性の焦燥を描いた「三月の兎」を収録。いずれも心を病んだ女性を主人公に、ゆがんだ男女関係とその奥に潜む虚無感を豊潤な文体で描いている。