



玩具
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4.0 • 1件の評価
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- ¥500
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発行者による作品情報
【第53回芥川賞受賞作収録】寸暇を惜しんで、ひたすら小説を書き続ける売れない同人誌作家の夫。そして、その夫の心の動きに一喜一憂しながら、こまやかな愛情をふりそそぐが顧みられぬ妻。破局寸前にありながら、奇妙なバランスを保つ夫婦関係の機微を、質実で丹念に書き込んだ、第53回芥川賞受賞作品「玩具」他、著者独自の文学世界を構築する四篇を収録。
APPLE BOOKSのレビュー
第53回(1965年上半期)芥川賞受賞作。表題作の『玩具』は、著者の夫で作家である吉村昭と自身をモデルとした私小説。協同組合で働く傍ら同人誌で小説を書き、作家になる夢を捨てきれない夫の志郎。彼には放浪癖があり、小鳥、こまねずみ、金魚と、思いつくままに小動物を求め、執筆がうまくいかないと物を投げては当たり散らし、自身が文壇で認められぬ現状へのいら立ちや家庭に縛られることを厭(いと)う気持ちを隠そうともしない。自分の感情には極めて忠実だが、人のために心を使うことはない夫。妻の春子はそんな彼の愛を求め、理解しようと必死に支えている。初めての子を妊娠中の彼女は小動物の匂いも、すぐ死んでしまうその存在も受け入れがたく思っているが、渋々受け入れざるを得ない。夫の一挙手一投足に振り回されながらも、ただ彼の神経にさわらないようきゅうきゅうとしている妻と、そんな妻を疎ましく思う夫。すれ違い、今にも崩壊しそうな緊張感をはらみながらも奇妙なバランスで成り立っている男女の姿から、一筋縄ではいかない“夫婦”というつながりを描き出す。