されど われらが日々──
-
-
4.0 • 6件の評価
-
-
- ¥480
発行者による作品情報
私はその頃、アルバイトの帰りなど、よく古本屋に寄った。そして、漠然と目についた本を手にとって時間を過ごした。ある時は背表紙だけを眺めながら、三十分、一時間と立ち尽した。そういう時、私は題名を読むよりは、むしろ、変色した紙や色あせた文字、手ずれやしみ、あるいはその本の持つ陰影といったもの、を見ていたのだった。(本文より)憂鬱ななかにも若々しい1960年代の大学の青春を描いた、この時代を象徴する歴史的青春小説。第51回芥川賞受賞作。
APPLE BOOKSのレビュー
第51回(1964年上半期)芥川賞受賞作。1950年代の学生運動を背景に、揺るぎないと信じてきた価値観を一気に覆されたことで、心に迷いや失望を抱えた若者たちの葛藤を描く青春群像劇。アルバイト帰りに立ち寄った古本屋で、大橋文夫はとある全集を手にする。その全集の旧所有者によって押された蔵書印を、婚約者である佐伯節子が見つけたことをきっかけに、苛烈な学生運動の現場を生きた旧友たちのその後の人生が明らかになっていく。命を燃やすようにのめり込んだ運動が、日本共産党の方針変更によって目的を失い、多くの学生の心に虚無感だけを残したこの時代。ある者は武装デモから恐怖で逃げ出してしまったことを悔やみ続け、ある者は結婚して主婦として夫を支えるだけの人生に疑問を持つ。そして、自分の信念に折り合いを付けるため、それぞれの決断を下すのだった…。現代とまったく異なる価値観が「常識」として存在していた時代の若者たちの赤裸々な告白を通じて、死と生、男と女、個人と社会といった普遍の概念について大いに考えさせられる一冊だ。芥川賞受賞の表題作の他、ラジオの魅力に取りつかれた少年を描いた短編「ロクタル管の話」を収録。